【PACファンレポート54兵庫芸術文化センター管弦楽団 第132回定期演奏会】4月17日の演奏会は、2024年の引退を表明している井上道義の指揮するオール・プロコフィエフ・プログラム。セルゲイ・プロコフィエフ(1891-1953)は帝政ロシアからソビエト連邦時代を生きた20世紀屈指の大作曲家だ。井上の演奏会は、視覚的にも美しく優美な指揮姿とともに、いつも楽しい趣向を盛り込んで、聴衆をハッピーな気分にさせてくれるが、この日も期待を裏切らない素晴らしい演奏会だった。
ソリストに注目の若手演奏家、22歳の服部百音を迎えた「ヴァイオリン協奏曲第1番」。プログラムのインタビューで「大好きでずっと弾きたかった曲を、マエストロが挙げてくださった」と人生で初めて披露する喜びを語っていた。
20分余りの曲の間に、ヴァイオリンが見せる多彩な表情。繊細な音を微かに響かせたり、息もつかせぬほど性急に前のめりになったり、音の飛躍をものともせず、滑らかに、まるで歌うように走り出したり……。第1楽章終盤、フルートやオーボエ、ハープとの掛け合いは夢見るように美しかった。
井上マエストロは、演奏に没入していく服部を温かく見守る風情。指揮台を用いず、奏者と同じ場で、時には指揮する手も止めて、ほとばしる若い才能とPACの作り出す音を心から楽しんでいるように見えた。
大きな拍手に何度も呼び戻された服部が、舞台袖に退場しかけた時、サッと指揮棒を手にしたマエストロ。オーケストラと「3つのオレンジへの恋」より行進曲を奏で始めた。服部は弾かれたように向きを変え、大きく踏み出して舞台中央へ。視覚的にも楽しいソリストアンコールだった。
オーケストラの曲は「交響曲第7番」。総勢80人の大編成だ。プロコフィエフが最晩年に作曲した曲で「平明で明朗な交響曲」と評されることが多いそうだが、私の耳には、そんなに単純な曲には聞こえなかった。
パーカッションが大活躍する構成は直線的なイメージではっきりしているが、随所に愁いを帯びて聞こえてくるフレーズがしのばせてある。内面に複雑な思いを抱えた、一筋縄ではいかない作曲家の横顔が浮かび上がってくる。
客席に向かって井上が「今日はプロコフィエフばかり。ロシアの作曲家だけど、いいでしょ?」と語りかけて始まったオーケストラのアンコール曲は、交響曲第1番「古典」より第3・第4楽章。
何度も呼び戻されて、最後には腰を曲げてヨロヨロとした足取りや腰をたたくフリまで披露して笑わせたマエストロは、サービス精神たっぷり。これほど個性的な指揮者の演奏会に足を運んだ幸せをかみしめた。ブラボー、ミッキー!
コンサートマスターは豊島泰嗣。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの戸上眞里(東京フィルハーモニー交響楽団第2ヴァイオリン首席)、コントラバスの黒木岩寿(東京フィルハーモニー交響楽団首席)、フルートの柳原佑介(東京都交響楽団首席)、トロンボーンの府川雪野(神奈川フィルハーモニー管弦楽団首席)、ヴィオラの増永雄記(日本センチュリー交響楽団副主席)とチェロの西谷牧人(元東京交響楽団首席)はPACのOBだ。
スペシャル・プレイヤーはトランペットの高橋敦(東京都交響楽団首席)、パーカッションの久保昌一(NHK交響楽団首席)と坂上弘志(元大阪フィルハーモニー交響楽団首席)。
PACのOB・OGはゲスト・トップ・プレイヤーの2人を含めて13人。ヴァイオリン8人、ヴィオラ3人、チェロ2人が参加した。(大田季子)